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警視庁から免許証の更新の連絡ハガキがきた。
もうそんな時期かと思いながら中を見ると、更新手数料2900円が必要と
書かれていた。相変わらず、車関係の手数料は高額だ。手数料分でCDの新譜が
買えると思うとうんざりさせられる。どうして住民票の発行程度の額で済まない
のだろうか。
しかし、文句を言っても仕方が無い。更新を忘れると2900円では済まなくなる
ので、忘れないようにカレンダーに印をつけておいた。
■
交通安全協会
その後、免許証の更新に行くという話をあちこちでしていたら、複数の人から
『交通安全協会費』の話を聞かされた。
話をまとめると次の通りである。
- 更新の時には『交通安全協会費』を請求されるが、あれは義務ではない。
- 義務でないにも関わらず、あたかも義務であるかのように取り立てる。
- 協会費は払わなくても問題ない。払ってもビニール製の免許証ケースを
くれるくらいであまりメリットはない。
- 更新手続きでは、始めから会費を上乗せした額を請求してくるから気をつけろ。
『交通安全協会』については、それまでも何度か聞いた事があるような気がしたが、
ほとんど気にとめていなかった。私自身、今まで何度も免許証の更新をしているが、
言われるままに支払って来たから、その中に協会費も入っていたのだろう。
交通安全協会は次のような活動をしているらしい。
- 交通安全ののぼりや看板の作成。
- 交通安全講習会の開催。
- パーキングメーターの見回り。
- 事故証明書の発行。
これらは警察の仕事だとばかり思っていたが、実は協会の仕事だったのだ。
さて、私としては自分にメリットがあればお金を払うのにやぶさかではないのだが、
これらの事業内容を見る限りでは、少なくとも私にはメリットはなさそうだ。
メリットのないことに金を払うのは無駄だから、協会費は請求されても払わない
ことに決めた。
■
府中運転免許試験場
京王線に乗って、多摩霊園駅で降り、バスに乗り換えて15分くらいで
府中運転免許試験場に着いた。
私はバスを降りて、気合いを入れた。
これから始まるゲームの内容は、交通安全協会に一銭も金を払わないで免許証だけを
手にしてでて来るというものだ。
何と言っても、払う必要のないものを義務であるかのように取り立てる団体が相手だ。
油断すれば足元をすくわれかねない。
私はまず更新手数料の内訳を知りたいと思い、案内窓口に行って単刀直入に
聞いてみた。
- 私
-
「更新手数料2900円の内訳を教えてください。」
- 窓口の女性
-
「講習会費が700円で、2200円が手数料です。」
- 私
-
「交通安全協会の会費は入ってないのですか?」
- 窓口の女性
-
「東京都の場合は入っていません。」
なんでも手数料に関しては都の条例で定められているということであった。
どうやら私の取り越し苦労だったようだ。
これですべては終ったはずだった。
■
謎の更新手続き
私は早速更新手続きに入ったが、理解に苦しむ手続きの連続であった。
受付で申請用紙をもらい、記入事項を記入していったのだが、どれもこれも
ほとんど免許証に書いてある内容をそのまま書き写すのだった。
一体何のためにこんなことをさせるのだろう。
免許証を提出させれば(そしてもちろん免許証の提出も求められているのである)
分かることではないか。そもそも、現免許証のデータはこちらにあるはずだ。
わざと手続きを面倒にしているとしか思えなかった。
申請用紙には、住所や氏名の変更があった場合のために新住所、新氏名の欄があり、
これは分かるのだが、新生年月日という欄まである。
一体、どういう場合に生年月日が変更になるのだろうか。
さらに驚かされたのは、写真を取ると言いはじめたことだ。免許証の更新のためには
6ヵ月以内に撮った写真(3x3.4cm)を事前に用意しておく必要があり、それを申請書に
張り付けて提出することになっている。その上、なぜまた同じ写真を撮る必要があるの
だろうか。以前更新をした時には、確か持って行った写真をそのまま免許証の写真に
してくれていたはずだ。いつからこんな無駄なことをはじめたのか。
私が、これは無駄だから申請書の写真を使うように担当者に言ったところ、
申請書の写真は申請のためのもので、免許用の写真はこれから撮るのだと言った。
私がなおも文句を言っていると、では後はこちらでどうぞと言って、
みどりの窓口
なるところに案内された。またはじめから文句を言うのか、とうんざりしたが、
気を取り直して再び不満を述べ立てた。
窓口担当者とのやりとりは以下の通り。
- 私
-
わざわざ写真を持参させておいて、また写真を取るのは無駄ではないか。
- みどりの窓口
-
予め撮ってもらった写真は申請書のためのもので、保存される。
ここで取る写真は免許証用の写真だ。
- 私
-
保存用には、発行した免許のコピーでもとればよいのではないか。
- みどりの窓口
-
コピーでは白黒しか扱えない。
- 私
-
カラーコピーもあるが。
- みどりの窓口
-
コピーでは写真が鮮明でない。それにここにはカラーコピーはない。
導入するためには予算が必要だ。
- 私
-
それなら持参する写真を二枚にすればすむ話なのではないか。
- みどりの窓口
-
持参してもらった写真では鮮明性に問題がある。ここには鮮明な写真を撮れる
機械が置いてある。
たしかに、大がかりな撮影装置が二台設置してあって、職員が一人ずつ張り付いて
写真をとっている。なるほど、これには予算がついたわけか。
利用者は行列を作って順番を待っているが、行列の案内のためにさらに二人の職員が
張りついている。
そんなことは写真屋にまかせておけばいいのに。大体、なんでこんなに
たくさん職員がいるのだ。
- 私
-
申請書に現免許証の内容を書きうつさせるのは何のためか。現免許証も提出させる
のだから無駄ではないか。そもそも現免許証を出力した時の情報は残っているはずだ。
- みどりの窓口
-
今のシステムではそのようになっていない。
- 私
-
手直しすればいいのでは。
- みどりの窓口
-
そのためには予算が必要だ。
断っておくが、以上のやりとりを窓口の担当者は笑みを絶やさずに行なった
のである。まるでわがままを言う子どもにやさしく言い聞かせるような感じ
だった。役人によくある高圧的な態度でこそないが、人の言う事を聞くつもりがない
という本質はなんら変わらない。
予算がないとできないというのも役人特有の発想である。
私は二度目に『予算』という言葉がでた時、「じゃあ、人を減らして予算を
作ってください。」と言った。この辺りでやっと担当者の顔から笑顔が消えた。
私は話をしながら、手数料が高くなるのは当り前だと思った。
結局、これ以上の苦情は「承り箱」に出してくれということになった。
言われた場所に行ってみると、住宅用の赤い郵便ポストにメモ帳のような
ものがぶら下がっている。これも役人のいつものパターンだ。
役人に文句を言うと大抵別の窓口を紹介され、最後には承り箱を紹介される。
承り箱には意見と一緒に住所、氏名、電話番号までかかせるが、役人の側は
責任者の名前すら明らかにしていない。
利用者の言うことなどはなから聞く気はないのである。
私は「承り箱」に二枚の意見書を入れ、写真撮影をすませた。
(この日と次の日、二日連続で私の自宅に無言電話がかかってきた。
無論、どこからかかってきたのかは分からない。)
■
無駄なテキスト
次に講習会会場に行った。講習会を終えれば、後は免許を受け取るだけである。
私は妙な手続きには不満だったが、交通安全協会に金を払っていないことには
満足していた。
講習会会場の入口の机の上に小冊子が山積みになっていた。そこにも担当者が
一人いて、4冊の小冊子をセットにして受講者に渡していた。
小冊子の内容は以下のようなものである。
- 交通安全ガイド(28ページ)
- 安全運転のしおり(28ページ)
- 交通の教則(112ページ)
- 頭脳的運転法(80ページ)
うち二冊は色刷のかなり贅沢なつくりだ。どうせ誰も読まないのに
もったいないなと思いながらかばんに放り込んで中に入った。
パネルとビデオをみれば終りということで、パネルを一通りみて、
ビデオをしばらくみて外にでた。そこで免許証の引き替え票を受け取った。
そこにも専任の担当者がいて、引き替え票の引き渡しという作業だけをしている
ようであった。
■
でたか交通安全協会
さて、免許証はその日のうちに受け取ることができるが、かなり待たされる。
郵送もしてくれるとのことだったので、それは助かると思いながら申し込みの説明を
読むと、手数料が900円必要となっていた。
そりゃ高いとすぐにやめたが、ふと説明書きの終りに書いてある名前が目に入った。
東京交通安全協会。
このサービスは交通安全協会によるものなのだ。あぶないところだった。
もう少しで交通安全協会に金を払うところだった。
なるほど、手数料と一緒に会費を徴収できないとなるとこのようなところで儲けて
いるわけか。しかし、競争が存在しないとは言え、希望する人にだけサービスを
しているのだから、文句をつける筋合でもあるまい。
受付の中は交通安全協会の出先機関のようになっていて、何人かの人がいたが、
空席が多いのが気になった。まさか講習会会場の出入口にいた担当者達もここの
職員なのだろうか。
■
謎の引き渡し手続き
免許証は、講習会場とは別の建物で受け取るようになっていた。
私は、広い待ち合い室のようなところで小一時間待たされた。
待ち合い室の椅子はすべて前方を向いており、前方には免許証の引き渡し窓口が
ある。窓口は普段はカーテンが締められ、中で何をしているかは分からない。
窓口の上には電光掲示版が設置されている。
免許証引き渡しのシステムは次のようになっていた。
- 各自が持っている引き渡し票には管理番号が書かれている。
この管理番号は引き渡し作業の単位になっていて、引き渡し票何十枚か毎に
同じ番号をふられている。
- 免許証が出来ると掲示版に管理番号が表示される。免許証を受け取る人は
その番号が自分の引き替え票の番号と同じであれば、窓口に引き渡し票を提出する。
- 一通り引き渡し票が集まると窓口は閉じられる。
- しばらくすると別の窓口が開き、名前が呼ばれると共に窓口に免許証が
並べられる。名前を呼ばれた人は窓口に行って自分の免許証を受け取る。
この手続きにはいくつかの問題がある。
第一に、免許証を受け取る人全員が、自分の番号が表示されるまで
長時間(約一時間)に渡って掲示版を監視し続けなければならない。
免許証引き渡しの準備が出来たのであれば、その免許証についてだけ名前を
呼べばいいはずだ。なぜ掲示版を監視させて、その番号の引き渡し票だけ
提出させなければならないのだろうか。
第二に、免許証を第三者にとられる可能性がある。
このシステムでは、引き渡し票の提出と免許証の引き渡しが別の作業になっているが、
引き渡し票を発行するのであれば、免許証は引き渡し票と引き替えにしなければ
意味がない。
何でこんなおかしな手続きになっているのかと考えてみたが、どうやらこの手続き
であれば、窓口担当者が楽ができるらしい。彼らは免許証が出来てきたら、あるいは
もうじき出来るという連絡が入ったら電光掲示版のスイッチをいれると共に
窓口を開ける。窓口には予め電光掲示版で指示した番号の引き渡し票しか入って来ない。
引き渡し票が集まったら一旦窓口をしめて、引き渡し票と免許証を突き合わせて、
引き渡し票のきているものだけを取り出す。最後に引き渡し窓口を開けて免許証を
ならべるというわけだ。この作業を何回(何十回)か行えば一日の仕事は終りらしい。
これで一体いくらの給料をもらっているのだろうか。
何人かの人はまだ自分の順番でない時に引き渡し票を窓口に提出しようとして、
窓口の担当者から「掲示版に表示された人だけですよ。掲示版を見てください。」と
注意されていた。彼らは「あ、そうか」とか「すみません」と言って引き返して
いたが、私には彼らの方がずっとまともな手続きにしたがっているように思えた。
■
思いもよらない手口
一通り引き渡し手続きを観察した後は、手持ち無沙汰だったので、
先ほど配られた無駄なテキストを取り出して、ぱらぱらめくって見た。
何気なく裏表紙を見て驚いた。「やられた!」
『編集発行 東京交通安全協会発行』
私はすべてのテキストの発行元を調べた。もらったテキストの発行元は次の通り。
- 交通安全ガイド(編集発行 全日本交通安全協会/東京交通安全協会)
- 安全運転のしおり(編集発行 東京交通安全協会)
- 交通の教則(編集発行 全日本交通安全協会/全日本指定自動車教習所協会連合会)
- 頭脳的運転法(編集発行 全日本交通安全協会)
もし仮に、ある出版社の出す本を日本の全国民の65パーセント(約7000万人)が
3年か5年おきに、必ずワンセット購入しなければならないと
決まっているとしたならば、その出版社の経営は絶対安泰だろう。
交通安全協会こそ、その出版社である。代金は先程支払った2900円の中で、
手数料か講習会費の名目で取られているに違いない。
私は既にゲームに敗れ去っていたのだった。
後日、横浜で免許更新を行なった友人から、申請書の作成が面倒なので交通安全協会
に協会費を支払って、書類の作成をしてもらったという話を聞いた。申請書の手続き
の無駄な繁雑さにもちゃんと意味があったのだ。免許の郵送サービスにしても、
いやがらせのような引き渡し手続きがあってこそ成り立っているわけで、
まったく同じ構造だ。
彼らにしてみれば、会費として徴収しなくても金を集める方法はいくらでもあった
のである。なんと言っても警察と組んでいるのだから。警察は手続きを面倒にして、
無駄な仕事を作りだす。それをまるごと協会に流せば、協会は無競争で仕事を取る
ことができ、警察は天下り先を確保することができるというわけだ。
例によって、金を払うのは関係のない我々だが、我々がいくら無駄ではないかと
言っても彼らの協力関係は微動だにしないのである。
私は免許証を受け取って外にでた。道路を渡ってバス停にたどり着き、
免許試験場の壁にぶら下がった垂れ幕を見た。
それはまるで警察と交通安全協会の固い絆の象徴であるように思われたのだが...。
ありがとう笑顔でかわすよいマナー
警視庁・東京交通安全協会
私はバスを待ちながら、敗北感の中でぼんやりとそれを見つめていた。
[97/4/3]
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